
第二回ラノベストリート大賞につきまして、選考委員による総評・選評を公開いたします。
「第二回ラノベストリート大賞」は、ライトノベル投稿サイト「ラノベストリート」に投稿された作品から、次にヒットするネクストブレイク作品を発掘するためのコンテストで、募集期間は2024年5月1日~2024年12月31日まで。
応募作品数は78作品となりました。
その中から4作品が最終選考作品として選ばれ、審査の上、大賞1作品を選出いたしました。
【最終選考作品】
『同人女の異世界召喚』裏山かぼす
『シャーベット・プレイ』榎本まう
『ゴーストヘルパー壬生坂』オスコール
『奴隷屋の日常』坂牧 祀
結果は下記の通りです。
ラノベストリート大賞
『同人女の異世界召喚』 裏山かぼす
【総評・選評】
■ 審査委員長 中村航の総評・選評
第2回ラノベストリート大賞の選考を終え、大賞作として『同人女の異世界召喚』を選出することができました。審査員、関係者各位、また何より応募していただいた皆様に、まずは感謝したいと思います。
応募作は78作品で、多いとは言えないと思いますが、第1回の受賞作『28メートル先のキミへ』が書籍化され、第2回の『同人女の異世界召喚』についても書籍化を進めていきます。応募作の(今のところの)少なさをチャンスだと思って、第3回についても、ご応募を心よりお待ちしております。
今回の最終選考作だった4作品については、どれも面白く、筆力の高さも感じました。特に『シャーベット・プレイ』については、文芸作品として見ても完成度が高く、読み手としての僕からは、とにかく好き、という言葉しか思い浮かばなかったです。内容やモチーフの希少性であったり、光るセンテンスであったり、とにかくこの作者は世に出るべき人ではあると思います。が、中高生をメイン読者として想定するライトノベルというジャンルでは、受賞は難しいという議論になり、それはその通りだと思いました。『同人女の異世界召喚』、『ゴーストヘルパー壬生坂』、『奴隷屋の日常』の三作品は、それぞれのテーマを書き切っている点で、甲乙付けがたかったです。そのなかでも特に『同人女の異世界召喚』には、モチーフの斬新さとキャッチーさがありました。同人女が異世界召喚されたら、というifは、それそのものが面白く、興味を惹かれました。作品のまとまり、という点では、やや弱かったのですが、改稿に期待し審査員全員一致で大賞を贈らせていただくことになりました。おめでとうございます!
■ 今岡英二(作家・編集・校正)
最終審査に残った4作品がいずれも秀逸だったため、審査員の議論が白熱。前回同様、会議時間は当初より延長となりました。受賞を逃した3作品については以下の通りです。「奴隷屋の日常」は「奴隷屋」が主人公という斬新さが際立っており、正直、次に大賞に近いところにいました。大賞を逃した要因は「読者ターゲット層を意識しているかどうか」でしたので、今後はそこを意識した作品作りを行ってください。「ゴーストヘルパー壬生坂」は冒頭の4話まではピカ一なので、後は視点のブレに気を付けてください。「シャーベット・プレイ」は筆力はすでに即プロ級でしたが、「テーマがラノベかどうか」が問題でした。次回は主題選びも念頭に入れると、上手くいくと思います。
「同人女の異世界召喚」
会話のテンポがよく、キャラクターも立っており、「ライトノベルとして売っていくのに一番適している」というのが大賞となった大きな理由でした。WEB小説とは異なり、紙の書籍は「手に取ってもらう」「冒頭を読んでもらう」「実際にお金を出して買ってもらう」といういくつものハードルが存在しますが、それをしっかりと飛び越えるポテンシャルを秘めている作品が本作。特に同人女という設定とタイトルの引きが良く、それが本作にも十分投影されている点が高評価でした。まだ粗削りなところもあるにはありますが、編集がつき、読者目線をしっかりと意識した作品作りができれば、大化けする可能性も大いにあるかと。今後は各キャラの深掘りでさらなる魅力を引き出してください。
■ 田中創(小説家)
今回の選考では、第一回に比べて個性が際立つ作品が多く、非常に刺激的な読書体験を得ることができました。
最終選考に残った四作品は、いずれも独自の世界観と強い魅力を持ち、どの作品にも賞を与えたいと思えるほどの可能性を感じました。オタク文化に特化した異世界召喚もの、ハードボイルドなファンタジー、学園オカルトサスペンス、そして異色な青春文学など、多様なジャンルの作品が揃い、ラノベストリートならではの幅広さが際立った大会でした。
今後、これらの作品がさらに磨かれ、多くの読者に届くことを期待しています。
「同人女の異世界召喚」
選考作品の中で、もっとも笑わせていただいた作品です。オタク文化や異世界ものあるあるネタを全面に押し出したコミカルな語り口には、一文一文に読者を楽しませようとする作者の気概を感じました。同人オタ女子という主人公像も斬新。パワーとセンスにあふれた強烈な作品でした。
ただ、物語上の主目的が漠然としており、主人公にもその問題を解決しようという動機が薄いため、話がやや散らかってしまっているところは残念でした。プロット上の主軸をかっちり決めると、先が気になる素晴らしいストーリーになると思います。
やや粗削りな部分はありますが、大賞にふさわしいポテンシャルは十分に感じました。今後の活躍が非常に期待できる作家さんだと思います。
■ 夜見ベルノ(小説発掘VTuber)
まずは今回もご応募頂きました皆様に最大の感謝を。特に最終選考作は非常にレベルが高く、審査員ごとの評価も大きく割れ、第一回を超える激論が交わされました。受賞に至らなかった作品についても「奴隷屋の日常」は、奴隷商人を扱った作品は多々ありますが、主人公が奴隷の待遇を良く扱いながらもあくまで「商品の質を高く保つため」と一線を引き続ける態度を取り続けられる、そのスタンスを貫き通すところに惹かれました。また、唯一その一線を越えて深い信頼感を結びあっている従者との関わり方から見えてくるバディ的な関係性も良く、単なるドライな主人公では終わらない深みを与えています。世界観もありがちなファンタジーに終始せず、その奥行きが見えてくるところが魅力的でした。「シャーベット・プレイ」については「文章力については全作品中頭一つ抜けていた」と全審査員の見解が一致しているほどでした。「ゴーストヘルパー壬生坂」についても、前半部のワクワク感については特に高い評価が集まっており、いずれもあと一歩というところだったと感じました。今回惜しくも受賞を逃した各選考段階の作品についても可能性を感じる作品は多々あり、是非更に磨きをかけて頑張って頂ければと思います。
「同人女の異世界召喚」
まず、タイトルに惹かれました。単なる女オタクではなく「同人女」。そんな彼女が限界化しつつも異世界で推し活しつつ生きていこうとする様子は、単なるオタク主人公像とは少し違うリアクションも含めて面白い。そして異世界側のキャラクターも主人公が推すだけの理由をしっかり持ち合わせており、こちらも思わず応援したくなる魅力がきちんと描かれていました。終始ハイテンション寄りではあるものの、通常は癒し枠になりえるマスコットが、逆に折に触れてこの世界の現実を突き付けてくることで緩急をつけているのも良かったところ。書籍として手に取るのが待ち遠しくなる一作でした。
■ 木野かなめ(Suteki-R)
今回4作品それぞれに個性があり、とても楽しい読書体験を得ることができました。ただ、うち3作品が未完結(あるいはそう感じられる)状態だったのは残念でした。
「奴隷屋の日常」は、前半が本当に面白かったのですが、後半に少々のブレを感じました。心情表現が大変上手ですので、あとは作品の毛色について統一感があるとより良くなりそうです。「ゴーストヘルパー壬生坂」は、筆者のやりたいことのイメージがよく伝わってきましたし、9万字程度でスケールのある物語を描けていたところが良かったです。ただ、せりふをはじめ、全般的に説明臭さがあるため、自然な形になるよう推敲してみると良いと思います。「シャーベット・プレイ」は読者に叙情的な想像をかきたたせる、強い筆力を感じました。あみとの関係が最高で、仲違いしたシーンは絶妙です。人間ドラマをもう少し加算してもよいかもしれません。あと大きなところとして、ラノベではないかな、と感じました。
この大賞を盛り上げてくださった筆者の皆様には、深い感謝を覚えます。このたびはまことに、ありがとうございました。次回の開催があれば、ぜひまた、ご応募くださいね。
「同人女の異世界召喚」
まず、文章が抜群に上手いです。筆者自身が楽しみ、かつ、読者も楽しませようという気概が感じられます。語彙も豊富でポップでした。限られた人しかわからないたとえや説明を突っこんでくるところは、大変私の好みです(笑)。物語が段階的に展開されており、丁寧な印象があります。また、描写に欠けがなく、ファンタジーにおけるリアリティを感じることができました。一方で、作中における目的意識が高くないので、読者目線で(一緒に解決したい)と思わせる巻き込みが必要になると感じます。丁寧である反面となりますが、1シーンごとの起承転結に少々の弱さがあります。このあたりを一つ一つ、編集部と協力し、議論し、ぜひとも良い刊行物になることを心から祈っております。
このたびは本当に、おめでとうございました!