第一回ラノベストリート大賞につきまして、各賞受賞者のコメント及び選考委員による総評・選評を公開いたします。
「ラノベストリート大賞」は、ライトノベル投稿サイト「ラノベストリート」に投稿された作品から、次にヒットするネクストブレイク作品を発掘するためのコンテストで、第一回の募集期間は募集期間は2022年11月26日~2023年8月31日まで。応募作品数は168作品となりました。
その中から4作品が最終選考作品として選ばれ、審査の上、大賞1作品、コミカライズ特別賞1作品を選出いたしました。
【最終選考作品】
『女勇者の手首の傷が心配なので付いて行くことにしました~ハズレスキル【ステータスオープン】しかありませんが追放されないように頑張ります~』詩一
『想喰姫』大淀たわら
『TRIGGER’z[トリガー’ズ] -砂塵に散るは神々の懺悔-』破魔 恭行
『28メートル先のキミへ』佑佳
結果と受賞コメントは下記の通りです。
ラノベストリート大賞 『28メートル先のキミへ』佑佳
[受賞コメント]
記念すべき第一回目の大賞という大きなタイトルに『28メートル先のキミへ』を選出くださり、ありがとうございます。
これまで「佑佳がいいと思ったのだから世界のどこかの誰かもこのお話をいいと思ってくださる」という一心で長らく創作活動をしてまいりました。
キャストたちと共に、読んでくださった皆々さまの背を押したり、自分は自分でよいという自信や勇気、そしてニヤニヤ恋愛模様などをお届けできるよう引き続き邁進いたします。
青磁くん、椎乃、タマ、マミちゃん、琢ちゃん。
みんなが貰った大賞です、本当に本当におめでとう!
改めて佑佳と一緒に頑張ろうぜ。
2024.01.04 佑佳
コミカライズ特別賞 『想喰姫』大淀たわら
[受賞コメント]
このたびは第一回ラノベストリート大賞コミカライズ特別賞に選出していただき誠にありがとうございます。
この作品は、私の中にある「きれいなもの」を文字で表現したものです。しかしながら画像・映像媒体が主流となった昨今、文章に目を通してもらうこと自体に一定のハードルが存在することは否めません。
今回の受賞によって拙作を絵で表現して頂ける幸運に恵まれました。私が表現したかった「きれいなもの」を、より親しみやすい形で皆さまのもとへお届けできることを心より嬉しく思います。
【総評・選評】
■ 審査委員長 中村航の総評・選評
まずは今回「ラノベストリート大賞」という賞を立ち上げることができて、何とか選考会を終えることができたことに、関係してくれた皆様、またご応募いただいた皆様に、深くお礼を言いたいです。特に大変多くの作品を読んでくれた選考委員の夜見ベルノさん、また快く選考委員を引き受けていただいた田中創さん、今岡英二さん、木野かなめさんには感謝の言葉もありません。
新しく立ち上げた「ラノベストリート大賞」の第一回、こんな作品に受賞してほしい、とか、こういう系統のものが受賞するのではないか、とか、そういった先入観は一切持っていませんでした。面白いか面白くないか(またもちろん、売れそうか売れそうでないか)といった観点で、最終選考まで進め、無事、大賞作をだすことができました。応募作や受賞作が、賞の意味や傾向を規定していく、僕はそれで良いと思ってます。第二回についても、前向きに進めて参りますので、応募者のみなさんには、ぜひまた挑戦していただけたら幸いです。
小説の選考会というものは、選考委員それぞれの文学感や思いを、討論という形でぶつけ合って進むのですが、「何とか受賞作をだしたい」というところが総意であることがほとんどです。今回は特にそんな気持ちに溢れた選考会で、弱点には可能な限り目を瞑ろう、そして良いところに着目しよう! という気概に満ち満ちた会でした。受賞された方には、ぜひそんな選考委員の気持ちを汲んでいただき、推敲などに邁進していただければ幸いです。
ここまで字数を割きすぎましたが、以下は受賞作への選評になります。
「28メートル先のキミへ」
この作品が獲得できる読者の像がまず浮かびやすかったです。弓道を題材にしたところも良かったし、タイトルも素晴らしい。映像化までイメージが膨らんだのは応募作随一で、作品の持つポテンシャルの大きさを評価しました。ヒロインにお膳立てしてもらうばかりの主人公ですが、一箇所でもガッツを見せる場面があったらいいな、と思いました。
「想喰姫」
大賞としても競った作品でした。想いを食べる、というヒロイン像が良かったし、作者の確かな筆力も感じました。キャラクターの葛藤はとても伝わってくるのですが、小説としてのカタルシスがもっとあれば良いなと思いました。小説としても面白かったのですが、構成を変えてビジュアルを付けると、さらに化けるんじゃないか、というのが賞に至った経緯になります。
■ 今岡英二(作家・編集・校正)
今回最終審査に残った4作品はいずれも秀逸だったため、審査員の議論が白熱しました。おかげで当初、審査会議は1時間の予定でしたが、気づけば2時間近くが経っていました。受賞を逃した二作品について、「TRIGGER」は異世界バウンティーハンターものという近年稀にみるハードボイルドさが際立っており、「女勇者の手首の傷が心配なので付いて行くことにしました~ハズレスキル【ステータスオープン】しかありませんが追放されないように頑張ります~」は異世界ファンタジーもので主人公の気弱さが読者の共感を生みそうなところが持ち味という良さがありましたが、ぎりぎりのところで受賞を逃したという次第。次回はよりブラッシュアップした作品を書き上げて、さらに上を目指してください。
「28メートル先のキミへ」
軽易な文章が全体を通して読みやすく、前向きで明るめの空気感が評価されました。おちゃらけた感じの文章は、読者の好き嫌いが激しいため審査員の評価は真っ二つに割れましたが、私個人は「売れる作品は多くの人に嫌われない作品ではなく、90人に嫌われても10人からの熱烈な支持を受ける作品である」と強く推薦した次第。粗削りではあるものの、その尖った作品性が評価されての大賞です。なお、その軽易な文体を「ここだけは」と思うシーンのみ抑えめにすると、よりシーンのシリアスさが増しますので、今後はそういう「緩急」も念頭に入れてください。たとえばクライマックスとラストの2つにおいて、そういうシリアスムードを纏わせるだけで、ぐっと作品が引き締まります。
「想喰姫」
文章力や総合力は、間違いなく4作品中、最上位でした。これは全審査員が認めるところなので、今後は文章力より、プロット作成力や全体の構成力を伸ばすといいかと思います。というのも、文章力自体はほぼプロレベルに達しており、各話とも非常に上手くまとまってはいるものの、きれいにまとまっているせいで、全体の流れが読めてしまう。冒頭か一話目あたりに伏線を張っておいて、ラストで読者が想像もしなかったような意表をついた伏線回収をすれば、作品はさらに良くなるでしょう。なお、これは個人的な意見ですが、短い文章はすでにプロ級なので、短編アンソロジーなどへの執筆参加は今すぐでも通用するかと。短編の賞などを視野に入れてみるのもありかもしれません。今後さらに期待です。
■ 田中創(小説家)
「28メートル先のキミへ」
”弓道”そして”失語症のヒロイン”。本作の中心となっているふたつの要素は、近年の作品では見られない際立って新しい要素でした。タイトルも「どういう意味だろう」と惹き付けるものがあり、あらすじを読んだ段階でのファーストインプレッションは応募作品中で抜群。まさに大賞に相応しいポテンシャルを感じました。
キャラクターたちの掛け合いもユニークでテンポがよく、オリジナリティに溢れておりました。地の文に見られる主人公の前向きな明るさも、友達として応援したくなる印象です。
全体として明るく楽しく読めるラブコメディでしたが、終盤の展開の起伏に欠けるのはもったいないと感じました。主人公たちが乗り越えるべき壁が小さすぎる。せっかく「失語症」という重いテーマを扱っているのだから、もっとドラマティックに展開できるのに……と思ってしまいました。
キャラクターと読者を惹くフックの強さは完璧。少し手を加えれば、素晴らしい作品になる。そんな可能性に溢れた作品と作者さんです。将来性を考慮して、大賞に推させていただきます。今後の展開が楽しみです。
「想喰姫」
即戦力でプロとしてやっていけるレベルの卓越した文章力。それが「想喰姫」の第一印象でした。
この点に関しては、応募作品の中でも頭一つ抜けていたと思います。美しい情景描写とともに語られる物語は非常に心を揺さぶるものであり、特にヒロインの過去エピソードは強烈な印象を残しました。
また、個々のキャラクターの描写においても、読者に好感を抱かせる上手な見せ方がされています。主人公の背景が徐々に明らかになっていく仕組みは、読者を物語に引きこむ要素となると思います。
伏線の張り方も見事です。特にラスト近辺で絵を抱きしめるシーンは、物語全体を締めくくる上で素晴らしい瞬間でした。
ただし、一方で改善が求められる点も見受けられます。
まず、タイトルの読みにくさが挙げられます。タイトルは作品の第一印象を左右する重要な要素であり、改善が望まれます。
ヒロインの行動動機にも、理解しにくい点がありました。「自分の能力のせいで他人に迷惑をかけた過去がある」「だから自分を罰するために他人の記憶を食っている(=結果、他人に迷惑をかけてしまっている)」というのが、正直ピンとこなかったところです。彼女が自分の力を忌み嫌っているのなら、他のやり方で自分を罰することはできなかったのでしょうか。
最後に、エンディングの展開がややご都合主義に感じられる問題もあります。「たまたま事故の結果ヒロインの記憶と能力が消えてハッピーエンド」というのはどうなのでしょう。中盤、罪の記憶を抱えて生きることの是非を問う展開があっただけに、この展開はもったいない印象があります。
とはいえ「想喰姫」は圧倒的なフックと卓越した描写力を持つ優れた作品です。一部改善が求められる点があるものの、コミカライズの展開に期待が高まる作品と言えます。
■ 夜見ベルノ(小説発掘VTuber)
まずはご応募頂きました皆様に最大の感謝を。いずれも力作揃いでしたが、特に最終選考作は非常にレベルが高く、審査員間でも長時間にわたる激論が交わされました。受賞に至らなかった作品についても「女勇者の手首の傷が心配なので付いて行くことにしました~ハズレスキル【ステータスオープン】しかありませんが追放されないように頑張ります~」については隙なく綺麗にまとまっている完成度について評価が集まっていました。「TRIGGER’z[トリガー’ズ] -砂塵に散るは神々の懺悔-」についても迫力ある戦闘描写に高い評価が上げられており、いずれもあと一歩というところだったと感じます。今回は惜しくも受賞を逃した各選考段階の作品についても、可能性を感じる作品は多々ありました。是非更に磨きをかけて頑張って頂ければと思います。
「28メートル先のキミへ」
こちらも最後までコミカライズ賞に推す声が多かった作品です。ヒロインの設定はかなり重いものでありながら、ライトノベルらしい軽い読み味のおかげでそれを感じさせない手腕が見事でした。脇を固める友人たちも、気難しいヒロインと高校生らしい悩みを優しく背を押す形で支援しており、強く青春を感じさせます。書籍として手に取るのが楽しみになる一作です。
「想喰姫」
他の審査員からも言及があるとおり、文章力に関しては頭一つ抜けていることもあり、最後まで大賞に推す声は多かった作品です。美術部である主人公の独特の絵と「記憶を奪う」というヒロインの能力が良いシナジーを生んでおり、終始シリアスな空気感も作風と良く合っていました。個人的にも本作は最後まで一気に読み切ってしまうほど没頭でき、コミカライズという媒体をより生かせる作品であると感じました。
■ 木野かなめ(Suteki-R)
この度は、第一回という栄えある本賞において、選考委員を務めさせていただいたことを大変光栄に感じます。また、本賞を通じ非常に楽しく面白い作品に出会えたことにつき、応募者の皆様には心からの感謝をお伝えしたいと存じます。また、読者として参加された方、そして盛り上げに加わり楽しんでくださった方。全ての方に謝辞を申し上げます。
「28メートル先のキミへ」
とにかく元気で明るい作品でした。コメディ的なセリフ回しがとても楽しく、書き方に工夫と新しさを感じます。ただ、セリフが多くて展開に枷をかけている部分もありますので、このあたりは微調整が必要であるかと感じます。文章、という意味では、場景描写を多くし、舞台の魅力を引き出したいところ。読者には、舞台を含め、憧れをもって青磁と椎乃の生きる姿を楽しんでほしいと思います。
なお本作は失語症を扱った話ですが、キャラクターたちが生き生きしているため暗くならず、読者に元気を与えることに成功しています。特にヒロインの椎乃が極めて魅力的です。突き抜けたツンデレ感と、女性的な弱さを表現することができています。主人公の青磁とのスマホでのやりとりは、私の人生の読書経験の中でも有数のかわいらしさを感じました。
一方、シナリオについては、クライマックスにかけての盛り上がりを強化する必要があります。キャラクターたちの目的が恋愛だけになっている点、そしてキャラクターたちへの障壁がない点(失語症という設定の障壁ではなく、シナリオ的な障壁がないという意味)が原因となり、大きな波のないシナリオになってしまっています。舞台設定(場景描写)とクライマックスにかけてのシナリオ。この二点を改善すれば、傑作となること間違いなしです。
私は本作に新しさを感じました。それが本作の最大の長所です。ラノベ界、そしてラノベストリートに新しい風を吹きこんでくれる可能性を感じ、私は本作を大賞に推薦しました。
「想喰姫」
文章力、特に描写力が極めて高かったです。すなわちディテールが良い。これは他の選考委員の先生方も同意見で、全会一致の見解でした。私は本作の醸し出す叙情性が大好きです。これが本作最大の長所と感じており、その筆力に、最後まで大賞とすべきかどうか迷いました。ただ、全体的に叙情性を感じる一方、笑えるようなシーンが少なく、全体的に暗い印象がありました。シリアスシーンは笑いとの対比により効果的となるケースがありますので、今後ご検討をいただけると幸いです。
ヒロインの白亜が大変魅力的です。特に生い立ちが強烈で、インパクトがあります。加えて、心理への深掘りが見事です。質の高い小説です。成長後も伏線の提示がすばらしく、後から読み返すと記憶が喰われているシーンが非常にうまく浮き彫りになって見えます。ただ、シナリオが少し一本調子になっており、想像のつく展開もありました。難しいとは思いますが、このあたりをひとひねりすれば本作は完璧になると感じます。